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上級講座「特許明細書A」 Q&A

通信科受講生から寄せられたご質問を紹介しています。
回答は、上級講座「特許明細書A」担当講師の、中嶋由衣先生、仁志川朋子先生です。

◆英文法については初級講座「はじめての翻訳文法」Q&A、特許翻訳については初級講座「はじめての特許翻訳」Q&A
中級講座「特許明細書」Q&Aも参考になります。

専門用語に関するお勧めの参考書はありますか。
最初は新聞や雑誌で興味のある分野から読み、守備範囲を広げていくとよいでしょう。たとえば「日刊工業新聞」や「日経産業新聞」を購読すると技術系文書に慣れます。
日経BP社関係の技術者向けサイトTech-Onを定期的に閲覧するのも非常に勉強になります。
技術文書でifは(「もし」ではなく)「の場合」と訳すと教わりましたが、ほかにも同様の例はありますか。
参考になる書籍を以下にご紹介します。
 丸善株式会社「技術翻訳のテクニック」
タイトルどおり技術翻訳のテクニックを丁寧に紹介した本です。
同様の書籍は多数出版されているので、ご自分に合ったものを選ぶとよいでしょう。
「The solder bumps 12 serve」は「役割をもつ」と訳し、「持つ」は「手で持つ」場合に使用する、と説明されています。
「もつ」以外にも同様の例はあるでしょうか。
「~の場合」という意味での「とき」はひらがな(例:・・・が使用されるとき、)、接続詞の「したがって」は平仮名、動詞の「従う」は漢字で表記することをお勧めします。
ただし、これらはあくまでも「推奨」であって、絶対的な規則ではありません。
表記法に関しては、たとえば文化庁ホームページの「(1)公用文における漢字使用等について」に掲載されている「1.漢字使用について」が参考になります。
a robot apparatus that can を a robot apparatus which can に書き換えることはできますか?
使い分けがあれば教えてください。
江川泰一郎著「英文法解説 改訂三版」(金子書房)80~81ページには、関係代名詞thatは「人間・人間以外の生物・無生物のすべてに使われ、常に限定用法である」と説明されており、thatが主に使われる場合として以下が列挙されています。
 (1) 最上級の形容詞、the only、the first/last、the veryなどの「唯一」の意味の修飾語が伴うとき
 (2) all、any、every、noなどの「全」または「無」の意味の修飾語が伴うとき
 (3) 疑問詞whoの直後にくる場合
 (4) 先行詞に人間と人間以外のものを含む場合
 (5) 先行詞が人間の性質などを示す場合
この訳例は上記(1)~(5)のいずれにも該当しないので、whichも使用可能です。
「複数行」はplural rows of、「複数列」はplural columns ofと訳されていますが、それぞれplural lines of、plural rows ofと訳したら誤りでしょうか。
一方にplural rows of、他方にplural lines ofを使うのは誤りとはいえませんが、訳文のバランスが悪くなります。というのも、rowに対してはcolumnが「対」として一般的に使われるからです。lineを使うのであれば、horizontal and vertical linesのように両方ともlineを使ってmatrixを表現するとバランスはよくなりますが、原文の「行」と「列」のニュアンスから若干離れてしまいます。
総合的に考えると、訳例のようにrowとcolumnで表現するのが最も適切でしょう。
翻訳に役立つソフトウェア、ユーティリティなど、お勧めの製品があれば教えてください。
使用される目的にもよるので、アプリケーション等の具体的な名称を挙げるのは難しいのですが、「翻訳作業の効率化」という観点ではWordのマクロ機能を活用するのも一案です。
たとえば、下記サイトの情報も役に立ちます。
 ・特許実務家・翻訳実務家の道具箱
 ・みんなのワードマクロ
単数と複数のいずれを指すのかを原文(和文)から判断できない場合には、どのように処理すべきでしょうか(「指令を与えた」を gave an instruction と gave instructions のどちらにとするかなど)。
前後の文章との関係等から判断する場合が多く、一概には何とも言えません。
ただし、クレームについては原則として単数で訳出します。これは、発明が成立する最小の構成単位でクレームを記載することになっており、構成要素を「単数」で記載しても「複数」存在する可能性があると見なされるからです。
構成要素をクレーム中で「複数」で記載した場合には、「単数」の可能性が含まれないことになるので注意してください。
英文に多数の修飾語句(副詞句)がある場合、たとえば、「AからBを通って」「~の速度で」「~することなく」「~に応じて」など、どの順序で訳したらよいかわからないことがあります。
考え方の指針を教えてください。
「読者にとって最も明快かつ自然な形の日本語」であることが重要です。
たとえば物体が移動する場合には時系列で表現するとわかりやすいでしょう。
Section9の例題は訳例を読んでもよくわかりません。
ページ5-4の例文7行目の「ランド」と 5-5の課題2の1行目「マニホルド」のニュアンスについて教えてください。
マニホルドは燃料/酸化剤ガス用の配管を指します。
供給マニホルドと排出マニホルドは流路でつながれており、流路は溝のように低くなっています。
したがって、隣接する2つの流路の間に高くなった部分ができ、その部分が「ランド」と呼ばれています。
特許翻訳では一般的に、Calibrationの訳語は「校正」と「較正」のどちらにすべきでしょうか。
これについては、通常の書籍に当てはまる原則が特許翻訳にも当てはまります。
一般的に「較正」はcalibration、つまり「測定器の狂いを基準となるものと較(比)べて正す」という意味で、「校正」はproofreading、つまり「文章の誤りや不備を正す」という意味です。
ただし、「較正」が「校正」と書かれていることも多く、どちらの表記を用いても誤りではないようです。
長い文章でも分けずに訳した方がよいですか。
それとも簡潔な短文に分けて訳すべきでしょうか。
どちらでも構いませんが、原文と訳文の意味が等価になるように注意してください。
その際、指示代名詞(「それ」や「その」)を使うと曖昧になる箇所では、指し示す内容を必要に応じて補いましょう。
日本語の原文に接続詞がない箇所に、英訳の段階で接続詞を加えてもよいですか。
原文と訳文の内容が等価であれば構いません。
和訳の場合、数字や括弧は全角で統一した方がよいですか。
半角と指示されたときはそれに従いますが、特に指示がなければ英数字、記号、スペースはすべて全角とします。
明細書では、受動態は「られている」(「られる」でなく)と訳すのが原則と考えてよいですか。
それとも、「られている」と「られる」の訳し分けの基準があるのでしょうか。
そのような原則は特にありません。「られている」と「られる」は基本的に文脈に応じて訳し分けます。
「られている」と「られる」のどちらも違和感がない訳文になることもあるので、どちらを使用するかは文脈に応じて判断します。
この点に関しては、特許明細書以外の文書や書籍の場合と変わりません。
原文の図の用語が一致していない場合、訳注を付ける必要がありますか。
言い換えが多いと思いますが、特許では図の用語を言い換えず、英語であっても同じ用語に統一すべきでしょうか。
用語の多少のばらつきはよくありますが、基本的には原文どおりに訳します。
通常、訳語を無理に統一する必要はありません。
ただし、同一の明細書に同じものを指す表現が複数ある場合、可能であれば訳注を付けるとよいでしょう。
typicallyを訳し分ける基準はありますか。「典型的に」とすべきか「一般的に」とすべきかでいつも迷います。
そのような基準は特にありません。
従来技術に関する説明文中であれば「典型的に」と「一般的に」を適宜用いれば構いませんが、出願する発明に関する説明文中では「一般的に」よりも「典型的に」の方がよいようです。
というのも、発明は「新規」であるべきなので、「一般的」という表現が適さないと考えられるからです。
英訳でのtheとa/anの使い分けについて。
TEXT 2の2-32ページでは、項目「冠詞」に「【特許請求の範囲】に対応している部分…」と記載されています。TEXT 2では「【0011】本発明では、…」に相当すると思いますが、この箇所は英訳では「SUMMARY OF THE INVENTION」の途中に記載されると思います。
となると、英訳での「【0011】本発明では、…」よりも前に記載される内容で既出の用語についても、クレームに対応して「a/an」を使用すると考えればよのでしょうか。
この案件の場合、【0011】から「SUMMARY OF THE INVENTION」が始まると考えるのが自然でしょう。
「発明の目的」を述べている【0010】が「SUMMARY OF THE INVENTION」に含まれることも考えられますが、その場合であっても、「目的」を述べている【0010】で既出の要素は、「手段」を述べている【0011】では初出扱いとするのが普通です(これはあくまでも『原則』なので、当然のことながら、そのようになっていない明細書も存在します)。
冠詞の用法は、原則として明細書の文脈・書き方に応じて適宜判断します。たとえば、和文明細書中で【背景技術】、【発明が解決しようとする課題】、【課題を解決するための手段】に記載されている名詞を英訳する際には、一般的には項目が変わるごとに初出扱いとします。ただし、【背景技術】の中である従来技術の説明で登場した名詞が別の従来技術の説明にも記載されていた場合、その名詞は別の従来技術の説明では初出扱いと考えてください。つまり、「同じ名詞であっても完全に同じものを指していない場合には初出とする」のが原則です。また、実務では、Embodimentの説明文中の名詞をEmbodimentが変わるごとにすべて初出扱いとするように指定される場合と、そうでない場合とがあります。これはクライアントの好みなので、1つの定型が存在するわけではありません。
Section 4の「各」を単数形で訳したのですが、訳例ではeach ofなどを付けず複数形になっていることもあります。
原文の「各~」は忠実に訳さなくてもよいのでしょうか。
名詞の「複数形」がない日本語では、「複数」を表すためにさまざまな工夫が施されています。
「複数の~」とするのが一番明確ですが、この表現をいつも使うと極めて冗長な文になります。そのため、名詞の前に「各」や「諸」を付けたり、名詞の後ろに「類」や「群」を付けたりして、「複数」のニュアンスを簡潔に表します。したがって、そのような意図に基づく「各」等についてはeach等で表現するのが適切とは限りません。
このような理由により、訳例では名詞の「複数形」で「各」を表現しているとお考えください。
訳注の付け方がよくわかりません。たとえば別紙にまとめるか、翻訳原稿に記載するのでしょうか。
どのような文面にすべきかも教えてください。
訳注の付け方は翻訳会社によって異なり、別ファイルで一覧表にするほか、コメント機能で翻訳原稿に挿入することもありますが、前者が多いと思います。
いずれの場合も、原文のページ数と行数、訂正して訳したか、原文どおりに訳したかを明記してください。
記載例は以下のとおりです。
原文箇所 コメント
p.2-8, l.13 「inverting the function a(T)」は「taking the inverse of the function a(T)」などの誤りと思われますので、
訂正して訳しました。
「配置されてなる画素部」は「配置されている画素部」の入力ミスかと思ったのですが、特許の特殊な表現かもしれないと考え直しました。
入力ミスに見える場合も訳注に記載すべきでしょうか。
明細書では基本的に硬い語調が好まれます。
「~されてなる(成る)」は和文明細書の頻出表現で、入力ミスではありません。
「~されてなる(成る)」に関する訳注は翻訳者としての経験不足を露呈させるので、くれぐれもご注意ください。
特許独特の言い回しの使用頻度は、Web検索でも確認することができます。
たとえば、「特許電子図書館」の公開テキスト検索で[公報種別]を「公開特許公報」とし、[検索項目選択]で「公報全文(書誌を除く)」を選び、その横の[検索キーワード]欄に「配置されてなる」と入力してから[検索]を実行してください。検索方法を工夫することで、早合点を避けられます。特許翻訳者を目指すのであれば、調査をおろそかにしてはなりません。気になる表現を見つけた場合には、こまめに確かめましょう。
are receivedの訳例を検索している際に「螺合される」という用語を見つけました。
その後にテキスト内でare receivedが「受けられる」と訳されていましたが、「螺合される」に対応する特別な英単語があるのでしょうか?
「螺合」とは「ネジを嵌め合わせる」ことを表す言葉で、通常は動詞のscrewに対応します。
文脈によってare receivedにも使えるかもしれませんが、あくまでも「ネジ」に関する文脈で用いるべきでしょう。明細書の頻出用語なので、機械・電気系の特許翻訳者を目指すのでしたら押さえておく必要があります。
日刊工業新聞社の「特許技術用語集」と「特許技術用語類語集」を参考にしてください。
「サーボモータが作動すると、Xが回転することができる」をwhen the servo motor is activated, X can rotate ...のように直訳しました。
the activation of the servo motor enables X to rotate ...と意訳してもよいですか。
和文明細書では「~すると」や「~させると」がよく用いられますが、原文どおりwhenやifで表現すると読みにくくなるので、上記のように名詞構文を使うと効果的です。
名詞構文による表現は、1つの翻訳テクニックとして認められており、「意訳」というわけではありません。
「翻訳の泉」第3回「名詞構文の話」も参考になるでしょう。
特許翻訳者は、特許翻訳に特化されている方と他分野の翻訳も手掛けている方のどちらが多いのでしょうか。
特許関係の業務を経験してから特許翻訳の道に進む方は、特許翻訳のみに従事することが多いようです。
特許に加えて他分野の翻訳に携わっている方もいますが、どちらが多いかは何ともいえません。
特許翻訳には特有の表現や約束事があるので、特許に絞る方が文書によってスタイルなどに気を遣う必要がないという点で楽かと思いますが、そのあたりは人によって判断が分かれるでしょう。
翻訳会社のトライアルを何度か受けていますが、いつも合格するとは限りません。
定期的に受注している翻訳会社のトライアルを特許分野で受けてみましたが、残念ながら不合格でした。翻訳会社はどのような点に注目しているのでしょうか。
英和であれ和英であれ、原文解釈力、専門知識、訳文表現力が採点の大きなポイントであることは他の技術翻訳と同じです。
ただし、そればかりではなく、特許翻訳特有の書き方に従っているか、原文に忠実な訳になっているかなどといった点にも注目しています。
特許では、翻訳文が「発明の権利範囲」に影響を及ぼす可能性があるため、一般的な技術翻訳よりも原文に忠実に訳すことが求められます。
かといって、直訳調すぎても訳文表現力不足と見なされるので、特許翻訳における「忠実訳」がどの程度なのかの判断が特許翻訳以外の翻訳経験者にとっては特に難しいようです。
訳文の質を高めるには技術の理解が重要と感じています。
インターネットを活用して技術の理解を高める方法はあるでしょうか。
たとえばGoogle検索にはフレーズ検索、ドメイン指定など各種のオプションがあり、活用のノウハウに関する書籍も出版されています。
ただし、1つのサイトの情報を鵜呑みにせず複数のサイトで情報の裏付けを取ること、インターネットだけに頼らず書籍を活用することも大切です。
「技術の理解を高める方法」に関するご質問を受けたときは「日経産業新聞」や「日刊工業新聞」をお勧めしています。
読み続けるうちに技術系の文に慣れてきますし、好きな分野を本格的に勉強するきっかけにもなります。百科事典とは異なりますが、「マグローヒル科学技術用語大辞典」、「理化学英和辞典」などには用語の解説、Merriam-websterなどのVisual Dictionaryにはアイテム別に各部の名称が載っているので、英訳では何かと参考になります。数千円ですし、気軽に購入できるのも魅力です。
表現力を磨くために良い文章を多読することが一般に勧められています。
実践しようと思うのですが、英文特許(または和文特許)で翻訳者の参考になる実例はどうやって見分けられるのでしょうか。
翻訳文よりも原文のネイティブが書いたものを選ぶとよいでしょう。
個人ではなく、ある程度の規模の企業が出願した特許の方が信頼性が高いといわれています。
その上で優れた特許文書を見分けるには、翻訳者個人の力量が物をいいます。そのような力量を身に付けるのはなかなか難しいので、見分けられるようになったら相当の力が付いたと判断してよいでしょう。
初心者の段階では、あまり選り好みせずに、自分の得意分野の明細書から始め、徐々に対象を広げていく方法もあります。
得意分野がないのであれば、まずはそれを作っていくことが重要です。
ある分野に関する一定の知識が身に付けば、用語選択の適否や理解の難易度から明細書の良し悪しを自然に判断できるようになると思います。
欧州特許庁のデータベースesp@cenetで公開されている英訳にはどの程度の信頼性があるのでしょうか。
翻訳文は玉石混交といわれています。
対訳から調べた表現を用いるときは、ターゲット言語(日英なら英語)で、さらに対象分野で、その表現が適切かどうかを検証する必要があります。
米国特許商標庁のデータベースから日本特許の対訳を検索するにはどうすればよいのでしょうか。
①United States Patent and Trademark Office(米国特許商標庁)の“http://patft.uspto.gov/”のページを開くと、Issued Patents、Published Applicationsという2つのカテゴリーがあります。
探したい文献の番号がわかっている場合、Patent Number SearchまたはPublication Number Searchに力すれば、次に説明する⑤の画面が表示されます。
キーワードで適当な文献を探す場合には、どちらのカテゴリーでもQuick Searchが便利です。

②Quick Search ではTerm 1、2とField 1、2を組み合わせて検索するとよいでしょう。
たとえば、Term 1に“fuel cell”、Term 2に“JP”と入力し、Field 1で“title”、Field 2で“assignee country”を選択します。

③Searchボタンを押すと、日本の企業等が出願した「燃料電池」に関連する特許(出願)のタイトルリストが表示されます。

④リストのタイトルをクリックすると、その文献の内容を見ることができます。

⑤その中の“Foreign Application Priority Data”を参照すると、日本での特許(出願)番号等が記載されています。
この番号の文献を「特許電子図書館」の「特許・実用新案文献番号索引照会」で検索すれば、元の原文が見つかります。
ただし、原文と訳文の内容が完全に一致しているとは限らないことに注意しましょう。各国の特許システムに適合した形になっているのが普通です。
英語と日本語の明細書では記載の順序が異なりますが、訳文ではどちらの順序に合わせたらよいのですか。
たとえば日英翻訳の場合、英文明細書のフォームに合わせるべきなのでしょうか。
基本的にはターゲット言語のフォーマットに合わせますが、翻訳会社やクライアントによって多少異なることもあります。
現在は「三極共通出願様式」が使用されているので、言語が異なっても順序が大きく変わることはありません。
「三極共通出願様式」の詳細情報については以下を参考にしてください。
  ・三極共通出願様式について(特許庁)
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