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中級講座「特許明細書」Q&A

通信科受講生から寄せられたご質問を紹介しています。
回答は、中級講座「特許明細書」担当講師の、玉井克己先生、石塚朋子先生です。

テキストを確認すると、初めて文中に出てくる名詞すべてに不定冠詞が付いています。名詞にはそれぞれ番号が付いており、特定の名詞ではないかと思われますが、定冠詞を取らないのは何故でしょうか。あるいは、定冠詞に置換えることも可能ですか?
不定冠詞(a/an)は、読み手にとって未知の可算名詞を導入する際のマーカーとして使用することができます。
特許明細書で新たに実施形態を説明する場合、各構成要素は読み手にとって未知のものと考えられます。したがって、初出では不定冠詞を使用します。これは、その名詞に参照番号や参照符号が付いているかどうか、固有名詞的な名前が付けられているかどうかとは無関係です。
ここで注意が必要なのは、各実施形態は独立したものとして解釈されるということです。したがって、既述の実施形態で導入済みの構成要素であっても、実施形態が変われば、初出ではやはり不定冠詞を使用します(ただし、説明する実施形態が既述の実施形態の一部だけを変形したものである場合には、既出の要素に定冠詞を使用し、新規の要素に不定冠詞を使用することもできます)。
このような処理は、特許請求の範囲において、各独立項とその従属項ごとに、初出の構成要素に不定冠詞を使用し、既出の要素には定冠詞を使用することに対応していると考えることができます。
クレームの「前記」を意味する「the / said / such」は、任意に使用できますか?同じ文章中では統一させた方が良いでしょうか?
クレームの「前記」の意味で“such”が使用されることは稀です。少なくとも、自分で書くときには、使用しない方がよいでしょう。
“said”と“the”を使い分ける場合には、クレームの構成要素には“said”を使用し、それ以外の部分(構成要素が当然備えている部分)については“the”を使用するのが一般的です。ただし、最近では“said”と“the”を使い分けしないで、すべて“the”を使用するのが主流になっています。
次に、クレーム中の同一要素に対して“said”と“the”を混在させて使用してはいけません。異なる要素と解釈される恐れがありますから、どちらか一方に統一して使用することが必要です。
また、クレーム以外の部分では、原文が「前記」となっていても“said”は使用しません。“the”を使用します。
明細書中で「前記/上記」が混在する場合、その訳し分けはどうしたら良いでしょうか?
クレームでは、既出の名詞であることを示す定冠詞(“said”と同義の)“the”を「前記」と訳すことがあります。
しかし、それ以外の部分では、この“the”を「前記」と訳す必要はありません。通常の文章と同様に、「その/この/上記の」等と訳すか、または日本語では訳出する必要がない場合も多々あります。
“said”は、原則としてクレーム以外の部分では使用しないことになっていますが、使用されている場合には「前記」と訳しています。
注意が必要なのは、【課題を解決するための手段】(サマリ)の部分です。この部分の記述は、クレームの内容がほぼそのままの形で流用されていることがあります。このような場合、通常の文章として一から訳してもよいのですが、クレームの訳文をできるだけ活用することで翻訳の効率も上がり、クレームとの整合性もよくなります。
請求項の英訳の際に、saidとtheの使い分けをするコツ、もしくはsaidを効果的に使うコツはあるのでしょうか?
“said”と“the”の使い分けに関しては諸説あるのですが、既出の主要構成要素に対して“said”を使用し、その他の既出の構成要素に対して“the”を使用している例が良く見られます。ただし、何を主要構成要素と見なすかに関しては主観が入り扱いにくいため、最近では“said”を使用せずに“the”で統一する傾向も見られます。
単語の訳し方(漢字・カナ表記)で迷った際、適訳を選択するコツや優先順位があればお教えください。
例えば「current mirror」は、Googleでは「電流ミラー」より「カレントミラー」が圧倒的に多いのに対し、「current」は「電流」と訳すため「電流」で一致すべきか、同様に、mirrorは名詞の際「ミラー」と訳すため、動詞の場合も一致すべきか、など悩みました。
特許明細書の作成要領には、「技術用語は学術用語を使用すること」と記載されています。
一例として、次のような順序が考えられます。

①各技術分野の定評のある事典・辞書類、JIS用語集などの用語を使用する。
②対訳用語集(例えば、「180万語対訳大辞典」など)の訳語を使用する。
③「英辞郎」などネット辞書の訳語を使用する。
④“Google Scholar”で原語と訳語のペアをさがす。
⑤“Google”で一般サイトから原語と訳語のペアをさがす。
⑥カタカナ表記にして原語を併記する。
ただし、②、③、⑤の場合には、“Google Scholar”などで、実際にその訳語が対象となる分野で使用されていることを確認する必要があります。
なお、“current mirror”につきましては、私の手元の辞書では、①、②、③いずれも「カレントミラー(回路)」となっていましたが、④で確認する限り「電流ミラー」も使用可能だと思います。
therein, thereof, therethrough, thereby等が明細書でよく使われるとのことですが、英訳時にこれらを使うにあたって注意すべき点はありますか?
個人的な経験ですが、実際の英文特許明細書で、クレーム以外の部分に“there+前置詞”の形の副詞が使用されている例を見かけることは非常に少ないように思います。一般に、表現として堅苦しく形式張ったものであり、クレームを除く他の部分では他の言い回し(“前置詞+it/that”など)を使用するほうが良いとされています。
使用上で注意すべき点は以下の通りです。
①“there”の指す内容が文脈上明確かどうかに注意し、曖昧になる場合は“前置詞+具体的な対象”の形で記載すること。
②必要のない部分に付けていないか(削除しても同じ意味にならないか)に注意すること。
英訳問題において、名詞の前を「a」とするか「the」とするかでとても迷いました。
通常の英作文等と同様に、最初に出てきたものはa、次からはtheと考えてよいのでしょうか。
それとも、特許明細書独特の、定冠詞・不定冠詞の使用方法があるのでしょうか。
また、図示されていて番号の付いているもの(例:summing node 22)と、そうでない名詞(例:input)との間で、冠詞の使用方法に違いはあるのでしょうか。
冠詞の使用法は、日本人なら誰でも悩んでいると思います。私も例外ではありません。

①基本的に、特許明細書も通常の英作文と同じと考えていただいて問題ありません。

②「最初に出てきたものはa、次からはtheと考えてよいのでしょうか」
⇒そう考えてよろしいでしょう。特に請求項においてはこれが原則です(theの代わりにsaidを使う場合もあります)。
しかし、通常の英文でも、大きな文書になると、かならずしもこの法則が当てはまらない場合があると思われます。 特許明細書は長い文書になりますので一度出てきた単語だからと言って、内容的に前回の出現箇所と同じ物を指すとは限りません。
そのため、①を原則として、あとは通常の英文と同様、適切に「「a」とするか「the」とするか」を判断することになります。
(そうはいっても、「適切な判断」が難しいですね。一般には、この語は「一般的なもの」を指しているのか、「前出の特定の何か」を指しているのか、を考えながら「a」とするか「the」とするかを決めることになりますが、なかなか難しいのが正直なところです。)

③「特許明細書独特の、定冠詞・不定冠詞の使用方法があるのでしょうか」
⇒例:summing node 22などのように参照符号が付いた場合は冠詞不要であるとの見解もあります。 Table 1やFig. 2などに冠詞が付かないのと同じであるとの考え方です。この見解に従って書かれた特許明細書もあります。
しかし、現在は、「参照符号が付いていても通常の英文と同じように考える」というのが主流です。参照符号を取っても通常の英文と同じように使えるべきであるという考え方です。

④テキストの英訳問題のように、前後の状況の不明な場合は、aであるかtheであるかを特定することが難しいので、冠詞を必要とするのかどうか(不可算名詞であるか、可算名詞であるか)を中心に考えるべきでしょう。

また、文法書以外に「続・技術翻訳のテクニック」(富井篤著、丸善)、「理系のための英語論文執筆ガイド」(原田豊太郎著、講談社ブルーバックス)、「理化学英語の冠詞用法」(友清理士著、研究社)などが参考になります。
辞書には、「eachの前にはtheやone’sなどの修飾語を用いない」を書いてありますが、クレームにおいて、明らかに前述のものを指す場合は、“the each of ”を用いてよいのでしょうか。
それとも、文法的な原則通りeachの前にはtheを用いるべきではないのでしょうか。
用いてよいでしょう。
クレームでなくても、前述の「each of 」を指して後から記述する場合は、「the each of」となるでしょう。このtheは、eachの後に持ってくるtheとは異なる意味を有するものです。
ちなみに、「the each of the」をGoogleで調べてみると、一般文書の多数の例文がヒットします。
原文に多くの接続詞、たとえば and やorなどがある場合に、どこまでを一群と見なすかで悩むことが時々あります。構文を正しく見抜くための指針になるポイントをお教えいただけますでしょうか。
並列・列挙の“and”や“or”を訳すときに注意すべきことは、これらが等位接続詞であり、同形、同質のものを並列するときに使用されるものであるということです。
並列するものの形としては、単語、句、節、文のいずれでもよいのですが、同時に同質(同じ種類・働き)のものでなければいけません。
このことに留意して、“and”や“or”が何と何を等位的につないでいるのかを正しく読み取ることが必要です。

抽象的な議論になりましたので一例を示しておきます(サン・フレア「翻訳表現入門」のテキストより、貿易取引契約書の一節です)。

Should he fail to give notice in accordance with B.7., ①or should the vessel named by him fail to arrive on time, ②or be unable to take the goods, ③or close for cargo earlier than the stipulated time, bear all risks of loss of ④or damage to the goods from the agreed date ⑤or the expiry date of the period stipulated for delivery.

「買主は、第7項に従って通知を与えなかった場合、①または自己の指定した船舶が所定の期日に到着せず、②もしくは物品を引き取ることができず、③もしくは指定期日前に積荷を締め切った場合には、約定期日⑤または約定引渡期間満了日から当該物品の滅失④または損傷に関する一切の危険を負担しなければならない。」

①: “Should he fail to give notice in accordance with B.7.”と“should the vessel named by him fail to arrive on time”という2つの副詞節をつないでいます。
②③: “fail to arrive on time”と、“be unable to take the goods”と、“close for cargo earlier than the stipulated time”という3つの動詞(原形)を含む部分をつないでいます。これらの動詞はすべて、前の助動詞“should”につながっています。
④: “loss of”と“damage to”という2つの「名詞+前置詞」をつないでいます。
⑤: “the agreed date”と“the expiry date”という2つの名詞をつないでいます。

このように、並列されている同形・同質のものを見つけることが、正しい解釈のポイントになります。
英訳する場合、前置詞の使い分けで、よく悩みます。たとえば、method of…とmethod for…の使い分けなど明確な基準はありますか。
前置詞の使用に関しては、連語辞典または英和活用辞典(例えば、「Oxford Collocation Dictionary for Students of English」(Oxford University Press)や「新編英和活用大辞典」(研究社))で用例を確認されるとよいでしょう。
これらの辞書で “method+prep.”の用例を調べてみますと、“method for ~”と“method of ~”はどちらも使用可能であり、用法上も大きな差がないことが確認できます(ネイティブにとっては微妙なニュアンスの違いがあるのかもしれませんが、そこまでは確認できません)。
この件に関しては、例えば、倉増一「特許翻訳の基礎と応用」(講談社サイエンティフィク)には、次のように記されています。
『方法を表すタイトルはmethod for ~ingとmethod of ~ingの両方がありますが、特許では前者がより広く使用されています(クレームも同様)。method ofをmethod forに、逆にmethod forをmethod ofに直される場合がありますが、顧客および米国代理人の好み(preference)なので気にすることはありません』。
プロとして特許明細書の翻訳を専門にする場合、英訳、和訳それぞれ、1日に何ワードくらいをこなすことを要求されますか。
ある特許事務所における常勤者の1ヶ月のノルマは、和文英訳で4件、約40,000ワード(400字換算280枚)との話を伺ったことがありますが、このような数字は、あまり気にする必要はありません。
翻訳速度は、実際に仕事を始めれば急速に速くなっていくものだからです。
大切なことは、トライアルに合格し翻訳者登録するなど、何らかの形で仕事をスタートさせることだと思います。スピードは後から付いてきます。
課題にあった「パワーレール」という単語について、色々なサイトで検索しましたが、そのニュアンスが正確に理解できませんでした。
実際の回路構造などを見た経験がない場合、正確に理解できるための有効な方法を教えてください。
技術用語の意味を調べるには、“Google Scholar”が便利です。
“Google”のホーム・ページから “more >>”→“Scholar(世界中の学術論文を検索)”を選択すると、“Google Scholar”のページに移動します。
“power rail”と入力して検索すると3,760件がヒットします。この場合はIC関連の用語なので、“integrated circuit”とのAND検索を実施すると約1,160件がヒットします。
表示された内容を眺めていくと、“power rail (VDD) ”や“ ground rail (VSS)”などの表現があり「電源ライン」と同等の意味で使用されていることがわかります。必要な場合は、さらに個別のページの内容も確認します。
特許独特の表現(例えば、担持する、延在する、画定するなど)が分からず、的確に和訳できない場合があります。
これらに習熟するには、それ専用の辞書を購入した方が良いでしょうか。何かお勧めの書籍がございますか。
特許明細書の作成要領には、次のよう記載されています。
『 ・ 文章は口語体とし、技術的に正確かつ簡明に発明の全体を出願当初から記録する。…略…
 ・ 技術用語は学術用語を用いる。
 ・ 用語は、その有する普通の意味で使用し、かつ、明細書全体を通じて統一して使用する。…略…』

したがって、和訳の際に、特殊な「二字熟語」を使用する必要はありません。
しかし、機械関係の明細書では実際に使用されており、英訳の際には、その正確な意味を知る必要があります。
以下の書籍やWEBサイトが参考になるでしょう。
 ・「特許技術用語類語集」(日刊工業新聞社)
 ・「特許技術用語集」(日刊工業新聞社)
 ・「テクニカルライター英和辞典」(三省堂) ※特許専門辞書ではありませんが大変参考になります。
 ・Alaska-Southeast Bio-Research社の特許用語集 ※お使いのブラウザによって文字化けすることがあります。
 ・三和法律特許事務所・特許明細書機械用語集 ※面白い試みで、適切な訳語が思いうかばないときの参考になるかもしれません。
現在、テキストにある英文とその模範訳を全部入力して、自分の訳と比べて勉強しています。
このテキスト以外で、模範となる日英対訳の資料などを教えてください。
「翻訳の泉」をお勧めします。著者の岡田先生は、長年にわたり(株)サン・フレアで特許翻訳の指導にあたっており、このページは、その経験をもとに翻訳者が誤りやすい事項、心得ておくべき事項を英文法の項目に沿って整理されたものです。
対訳の例文も豊富であり、非常に有用なページです。ぜひご活用ください。
模範訳を見ると、前から順に訳している場合が多いようですが、工夫の仕方がよく分かりません。
「A…because B…」のような文章でも「A…なぜならB…」と前から訳すのが良いのでしょうか?
翻訳においては、訳文が原文の内容と等価で自然な日本語で表現されていることが重要であり、前から訳しても後ろから訳し上げてもどちらでも結構です。
ただし、翻訳作業の効率を考えると、できる限り原文の語順に沿って訳すのが有利です。
英語と日本語とでは基本的な語順(SVO、SOV)が異なっており、名詞の修飾方向も異なっているので、前から訳して自然な日本語に変換するためには、いくつかの翻訳上の技法を知っている必要があります。
具体的な技法については、例えば、下記の書籍を参考にされるとよいでしょう。
①亀井忠一著 「頭からの翻訳法」(信山社)
②竹下和男著 「英語は頭から訳す」(北星堂)

なお、クレームに関しては、微妙なニュアンスの違いが権利範囲に影響を与える場合がありますから注意が必要です。
例えば、
・ A method for ・・・ comprising the steps of:  disposing A to direct cooling air ~ のような場合、「Aを設けて冷却空気を導くステップ」と前から訳すのと、「冷却空気を導くようにAを設けるステップ」と訳し上げるのではステップの解釈に微妙な違いが生じます。このような場合には、原文の内容を正確に伝えるために訳し上げておく方が無難でしょう。
“When…”と“If…”とは、条件文としてどう使い分けているのでしょうか。何か明確な基準があるのでしょうか。
“If…”の方が、実現の可能性が低い場合に使うと聞いたことでありますが、実例を見るとそうでもない場合もあるように思います。
“if”は「そうならない場合があることに関して、そうなった場合に…」の意味で使用し、“when…”は「いつかは必ずそうなることに関して、そうなったときに…」の意味で使用します。
ご指摘のように、実際の英文明細書では、この原則通り使用されていないことも多いのですが、ご自分で英訳される際には、この原則を守るように気をつけられれば良いでしょう。
余談ですが、“if”や“when”に率いられる従属節は、その部分を主部にして単文で表現する方が好ましいことも多いようです。これは、話題の中心が主語になり、文の構造が単純になるからです。
和訳するときに、受動態と能動態の使い分けの判断が明確でありません。
原文に引きずられて、不自然な日本語に訳してしまう場合があるのですが、何か回避する方法はないでしょうか。
一般に、英語の受動態を能動形で訳すか受動形で訳すかのひとつの判断基準として、筆者や操作者の行為・意図による場合は能動形で訳し、結果が状況まかせで意図的でない場合は受動形で訳す、ということがあります。
また、表現するものが動作なら能動形、状態なら受動形が自然です。しかし、実際には、どちらで訳してもよい場合も多くあります。

また、英文の受動態を自然な日本語に訳すために、一般に、次のような処理方法が紹介されています。
 ①日本語の自動詞を使って能動態で訳す。
 ②by~を新しい主語にして能動態で訳す(実際には、by~が記されていないことが多いので、暗示されたby~を主語にして能動態で訳す)。
 ③「迷惑」「被害」「受益」のニュアンスがある場合には、受動態のまま訳す。

特許翻訳で問題になるのは、②の場合です。特許明細書では、権利範囲をできる限り広く取るために、敢えて主語を明示しない形の受動態を使用している場合があります。
実際、『原文の受動態を能動態の形で訳すと、暗黙の主語が特定され、積極的にある動作を実施することになり、権利範囲の解釈上で不利になる場合があるので、不要な態の変換はしてはならない』と指示があるるクライアントもいます。
また、態を変換することの効果が薄い場合(すなわち、どちらの態で訳してもよい場合)には、ひとつの明細書の中で、類似の文章が、ある個所では能動形で訳され、別の個所では受動形で訳されるという不統一が生ずる可能性もあります。
私自身は、原文の態のまま訳したのでは日本語の表現として明らかに不自然になる場合を除き、できるだけ原文の態を尊重して訳文を工夫するようにしています。あまり固定的に考える必要はないのですが、処理方法に迷ったときの考え方の参考にしてください。 「翻訳の泉、第2回 受身の話」も参考になります。
英文中に “said” があれば訳文で「前記」としますが、“the” がついている場合に、「前記」をつけるべきなのか、省略しても良いのか、判断の仕方を教えてください。
また、“the”、“said”を「前記」と訳さないときは、どういう場合でしょうか?
【特許請求の範囲】(クレーム)の部分では、既出の名詞であることを示す定冠詞“the”を「前記」と訳していますが、それ以外の部分で“the”を「前記」と訳す必要はありません。
この訳し方は、【特許請求の範囲】(クレーム)の中だけの約束事と考えればよいと思います。
したがって、クレーム部分以外の“the”は通常の文章と同様に翻訳すれば良いのですが、注意すべきなのは、【課題を解決するための手段】(サマリ)の記述にクレームの内容がそのまま引用されている場合です。この場合、「前記」と訳す方がクレームとの整合性は良くなるのですが、通常は「上記の/その/訳さない」などと置き換えています。
また、【特許請求の範囲】に限ってお答えしますと、“said”は必ず「前記」と訳します。一方、“the”を「前記」と訳すかどうかは顧客からの要求によって決まります。
「前記」と訳すように指示された場合に、個々の“the”について翻訳者が「前記」と訳すべきかどうかを判断するのは困難です。通常、次のようなルールで機械的に決定しています。
「(同一対象について)初出が不定冠詞または無冠詞である名詞は、次出以降のthe付き名詞を「前記(名詞)」と訳す」
したがって、「前記」と訳さないのは「初出から“the”の場合」になります。
特に指定がなかった場合は、どちらかの方針に統一して訳せばよいでしょう。
定訳がない場合の訳に関してや、原文のスペルの間違いなどに対しての訳注はどのように入れたら良いのでしょうか。
特に決まった方法やルールがありましたら教えて下さい。
サン・フレアの場合、実務では以下のような形式で、別ファイルの形でコメントを添付しています。
翻訳コメント
原文箇所 コメント
p.1, l.10 ・・・は~の誤りと思われますが、原文通り訳しました。
p.2, l.20 ・・・は~の誤りと思われますので、訂正して訳しました。

誤り発見時の処置方法はクライアントごとに異なり、指示書で指示されます。
学習の段階では(トライアル等も含めて)、最後にまとめて原文個所(ページ、行)、誤りと考えられる内容、処置を自由な形式で記述しておかれれば良いでしょう。
「et al.」はそのまま 「et al.」でよいのでしょうか。または「等」と訳すのか、それともどちらでも可能なのでしょうか。
訳せる部分は訳すのが基本です。訳し方に決まりがあるわけではありませんが、例えば「Glaser等の/らによる/他による・・・」などと訳すことができます。
ただし、【非特許文献】などにリストアップするときは、“Glaster et al, J. Non-Crystalline Solids, ・・・”とそのまま記載する方が自然だと思います。
日本語訳で、以下の例のように現在進行形に訳す(1)はどのような場合ですか?
また、現在形に訳す(2)はどのような場合でしょうか?それとも、単なる翻訳スタイルの違いにすぎないのでしょうか?
(1)~を有している。~を備えている。~に接続されている。
(2)~を有する。~を備える。~に接続される。
率直なところあまり厳密な使い分けを要求されることはないと思います。翻訳スタイル、好みの違いによる部分も大きいです。
ただ、ご質問で例に挙げられた動詞のうち「有する」と「備える」は状態を表す動詞ですね。このような動詞は、進行形の「~ている」という表現と、原形(例えば「有する」)の表現にさほどの意味の違いがありません。何かを「有する」のは現在持っているに決まっている訳ですから、このような動詞は「~ている」と進行形にする必要性がそもそも薄いように思います。
話し言葉では「~ている」と言わないと不自然になりますが、特に技術的な内容を扱う文章では「有する」、「備える」という形の方がすっきりしていて好まれるのではないでしょうか。(かつてクライアントからこのような動詞は「~ている」と訳さないようにとの指示を受けたことがあります)
これに対して、「接続する」は少々事情が異なります。ある要素が別の要素に常に接続された状態を表現するのであれば、「接続される」ではなく、「接続されている」と言うべきでしょう。また、接続されていない状態から接続された状態になることを言うのであれば、「接続される」と言わなければなりません。
このように動作を表す動詞は使い分けが必要になってきます。ただ、これは一般論で、例えば特許明細書だけを見ても、常に接続された状態を「接続される」と言っている例はいくらでも見つけることができるでしょう。
また、原文の英語が現在進行形であれば(特許明細書ではあまり多くはないと思いますが)、「~ている」と進行形に訳すのが一般的だと思います。
原文が現在完了形の場合も「~ている」と訳すことが多いですね。例えば従来技術の部分で、Many methods have been proposed for…を「多くの方法が提案されている」と訳すような場合です。
テキストに“so that”の使い方が記載されており、「~のように・・・する」の形で前から訳出する場合と、「・・・して、(その結果)~ようにする」の形で後から訳出する場合があるとあります。
しかし、英文法の参考書をみると、“so that”の直前にカンマがあるときは「・・・して、(その結果)~ようにする」のようになり、カンマがないときは「~のように・・・する」の形で訳出するとありました。
特許翻訳では“so that”を使うときにはカンマを使わずに英文を書き、文脈に合わせて訳を変えていくのが通常のやり方になるのでしょうか。
ご指摘の通り、コンマなしの“so that S+V”は「目的」を表し、コンマがある場合の“, so that S+V”は「結果」を表すと考えるのが基本です。
ただし、実際の翻訳では、訳文は常に「論理の展開(文脈)」および「他の部分の記述との整合性」から判断する必要があります。特許明細書の英文には(特に、非ネイティブの作成した英文には)、このような点にまで気を配らずに書かれたものがよく見られます。明確な誤りに関してはコメントを残し、訂正するかどうかは顧客からの指示によって決定していますが、“,”の有無などに関しては、通常は解釈の範囲内ということで論理的に整合する方の訳を採用しています。
顧客の目的は特許を出願することです。また、顧客は英語のプロでないことも多いのですから、文法的にはこうなるということで論理的に整合しない訳文を受け取っても、いたずらに修正の負荷が増えるだけで顧客にとってもメリットはないと思います。
”so that” を“such that”に置き換えることはできますか?”so that” と“such that”の使い方にはどのような明確な違いがあるのでしょうか?
“such that”および“so that”はどちらも従属接続詞ですが、基本的に“such that”は形容詞節を導き、“so that”は副詞節を導きます。したがって、“such that”は、
・A(名詞)+ such that ~:~のようなA
・A(名詞)+ be such that ~:Aは~のようなもの(be動詞の補語)
の形で使用されるのが基本です。ただし、“such that”は副詞節を導く場合にも使用されています。この場合、“such that”と“so that”はほぼ交換可能ですが、ニュアンスが多少異なります。
“so that”が目的、結果を表すのに対して、“such that”は程度、状態、様相などを表します。逆に、“so that”が形容詞節を導くことは有りません。
英数字は、全角または半角のどちらが一般的に使用されるのでしょうか。どのような場合に全角と半角を使い分けるかをご教示ください。
「特許庁ホームページ」⇒「特許電子図書館(IPDL)」⇒「出願方式・様式」⇒「出願の仕方-特許」とページを辿ると、このページの、「2. 出願書類の書き方について」の中に、出願書類の作成要領と記載例が出ています。
これらの作成要領を参照すると、「特許請求の範囲の作成要領」では、半角文字の使用は禁止されていますが、「明細書の作成要領」及び「要約書の作成要領」では、特に、半角文字に対する規定はありません。ただし、記載例を参照すると、英数字を含め、文字はすべて全角が使用されています。
半角文字が使用されているのは、「要約書の作成要領」の中で、(i)定訳がないときに英文を併記する場合と、(ii)外国語の学術文献を記載する場合、の例に限られています。
したがって、クライアントからの指示がない場合には、これらの記載例に倣っておくのが無難だと思います。すなわち、以下のように入力されるとよいでしょう。
 ①文字入力には、基本的に全角を使用する。
 ②全角で表示すると、非常に読み難くなる場合(英文併記や外国文献表記などの場合)のみ、半角英数字を使用する。
 ③JISの第1・第2水準(JIS X0208)に含まれていない文字、例えば、丸付き数字やローマ数字、半角カタカナ、JIS規格に対応していない飾り文字などは使用しない。
「a partition」が訳例で「1パーティション」となっていますが、「a」は必ず「1」と訳したほうがよいのでしょうか?
また、「1」と訳したほうがよいのはどのような場合ですか?
お答えとしては「訳出する必要がある時、あるいは訳出しないと日本語として不自然な時には訳出すべきである」となります。
ご指摘のテキストの箇所では、複数あるパーティションを1つ1つ別個に再プログラムできることを言うために「1」を訳出しています。
ご存知のように冠詞aはoneの弱い形で、訳出しない場合が大半です。訳出するのは次のような場合が考えられます。
例えば a kilogram of riceや in a weekといった語句を日本語にする際には、意識するまでもなく「1キロの米」、「一週間で」と翻訳するでしょう。
不定冠詞aは、不特定の1つのものを漠然と指す語ですので、その意を汲むことが求められる場合もあります。
例えばa way of doing this is…
という英語を日本語にする場合、「これを行う方法は~」と言っても必ずしも間違いではありませんが、より正確に原文の意味を表すと「これを行う方法の1つは~」となります。方法はいくつかあって、そのうちの1つを挙げている訳です。
また、特許明細書に関して言えばan embodiment of the inventionは、「本発明の一実施形態」と「一」を訳出することが多いです。
また、発明の目的を英語で言う際には、目的が1つであっても発明の範囲を広くとるために、あえてthe objectではなくan objectと表現することがあります。それを日本語に翻訳する際に、目の行き届く翻訳者であれば「本発明の一目的」等と訳すでしょう。
「1つ」ではなく、「ある」と訳す場合もあります。これは個数の問題というよりは、a certainの弱い形と考えられる場合です。
例えば in a senseを日本語にする場合、「意味では」では日本語としておかしいですね。どうしても「ある意味では」とすることになります。
a satellite orbiting around the earth at a speedであれば、「地球の周りをある速度で周回している衛星」となります。
おすすめの特許関係書籍や辞書があれば教えていただけますか。
私が所有している内、主要なものをリストアップすると、以下のようになります(既にお持ちかもしれません)。

①辞書
*ビジネス技術実用英語大辞典(海野夫妻編)(英和・和英) ※とにかく一番先にチェックする辞書であり、必須です。
*180万語対訳大辞典(英和・和英) ※訳語だけですが、沢山載っているので、参考になります。但し、訳語が多いときはどれを選択するかが問題ですが。
*マグローヒル科学技術用語大辞典 ※簡単な内容が載っているので役に立つことがあります。
*岩波理化学辞典(英和・和英) ※詳細な内容が記載されており、技術的に詳細な内容をチェックする必要があるときに重宝します。
*ランダムハウス英語辞典 ※一般辞書として、とにかく沢山載っています。他の辞書にはなくても見つかることが多いです。
*ジーニアス英和大辞典 ※用法が載っているのが重宝です。
*研究社新和英大辞典 ※和英の一般辞書でCDになっているものを他に知りませんので使っています。
以上を検索ソフト(Jamming)で一括検索しています。
*その他:英辞郎、オンライン辞書(パトロインフォメーションなど)

②参考書
*「英文明細書翻訳の実務」(飯田幸郷著、発明協会)英語→日本語
*「英文明細書作成の実務」(飯田幸郷著、発明協会)日本語→英語 ※これら2冊はかなり古い本で、内容ももう一つかなと思いますが、他にこのような本が無いので時々参考にします。
*「特許技術用語集」「特許技術用語類語集」(特許技術用語委員会編、日刊工業新聞社) 二字熟語の意味、日本語→英語 ※難しい二字熟語は機械関係の特許明細書に多いので、ご存知の本かも知れませんが、他にこのような本が無いので時々参考にしています。
*「英文特許の常識」(田辺徹著、工業調査会)日本語→英語
*「特許の英語表現・文例集」(W.Cローランド他著、講談社サイエンティフィク)
*「米国特許明細書の書き方」(伊東忠彦・伊東国際特許事務所他編、発明協会) ※正直なところ、特許翻訳の参考書は持っているだけで、必要に応じて必要な箇所をチェックするような使い方です。辞書と違って、これは必須ですと言えるような本が少ないです。
時制を使用する際の注意事項などはありますか。
例えば、実施例などは過去形で記載するような文を見たことがありますが、その他は基本的には現在形で記載するのがよいのでしょうか。
特許明細書の説明文は、一般に現在形が用いられます。その他、一般の技術文書で用いられる時制も、特許明細書で用いられます。翻訳の場合は、原文の内容を忠実に反映させることが大事なので、そのために必要な時制を用いればよいでしょう。
実施例では、普通は過去形が用いられます。ただし、実施例でも、実際に実験を行っていない「仮想実験」の場合は現在形が用いられます。これは原文が現在形になっているはずですから、原文に従って訳せばよいでしょう。
特許の時制に関しては、W.Cローランド、奥山尚一、他「特許の英語表現・文例集」(講談社サイエンティフィク)に上記のようなことが少し書いてあります。 特許明細書においても通常技術文書の使い方と変わりません。上記が原則ですが、原文の内容をきちんと把握し、それを適切な英語で表現するという意味で、原文に忠実な翻訳に徹すれば自ずと時制は決まると思われます。v
和製英語についての的確な調査方法を教えてください。特に、ある単語が和製英語であるかどうかを調べる方法が知りたいです。
和製英語にもいろいろな種類があるようです(例えば、「http://ja.wikipedia.org/wiki/和製英語」参照)。
英文を作成するときに必要なのは、その用語が和製英語であるかどうかというよりも、その用語が英語圏で意図した文脈で使用されているかどうかを確認することです。
ひとつの方法として、「Google」の「site:」コマンドを使用することができます。このコマンドは、指定したサイトだけを対象として検索を行なうものです。
例えば、検索したい適切な用語と組み合わせて「site:us」と入力すると、その用語を使用した米国籍のサイトだけが表示されます。その中から、必要な用語が意図した文脈で使用されているかどうかを調べることができます。「site:」コマンドは、他に「site:jp」として日本のサイトのみを表示すること、「site:uspto.gov」としてその用語が米国特許庁データベース内で使用されているかどうかを調べること、「site:ibm.com」などとして関連する特定企業のサイトに検索範囲を絞り込むことなどが可能です。詳細は、Googleの解説書をご参照ください。
なお、米国はインターネットの世界では特別な国で、URLに国名がなくてもよい唯一の国です。
例えば、「.com」、「.gov」などのURLを持つサイトが一般的です。
vまた、「.com」は申請すれば日本からでも取得することができます。
また、検索している用語が他の文脈で使用されていることも良くあります。
したがって、「site:us」や「site:jp」の件数だけで判断するのではなく、最終的には信頼できるサイトで、使用されている文脈を確認することが大切です。
専門用語について、調べられる範囲で調べてみたのですが分からないことも多くあります。
このような類の検索方法がありましたら教えてください。
専門用語の意味の検索は、例えば、次のような順序で実施することができます。

①各専門分野で出版されている定評のある辞書を調べる。
②WEB上に公開されている専門用語辞書を調べる(例えば、「翻訳と辞書」のようなポータルサイトを利用することができます)。
③WEBサイトで使用されている例から意味を判断する。
 (a)他の用語と組み合わせた「AND検索」
 (b)Googleの「define:」命令による用語の意味検索
 (c)「Google Scholar」を用いた学術論文での使用例検索
 (d)「Google Patent Search」を用いた特許明細書での使用例検索  などが利用できます。

具体的な検索方法については、例えば、「翻訳に役立つGoogle表現検索テクニック(安藤進 著、丸善)などを参照してください。
テキストに「特許明細書ではincludeはcompriseとほぼ同じ意味で使用される」とあります。
haveを含めて、これら3単語の英文特許明細書における使い方の原則、日本語訳の原則がありましたら教えてください。
“comprise”、“include”、“have”はオープンクレーム(クレームの記載内容に他の事項が加わっても権利が及ぶことを主張するクレーム)を作成する場合に使用されます。
クレームは、典型的にはプリアンブル、移行部、クレームボディで構成されますが、“comprise”はプリアンブルからボディへの移行部に使用され、次の下位への移行部には“include”、その次の下位への移行部には“have”が使用されることが多いようです。
ただし、これは規定ではなく、最初の移行部に“include”を使用している例を見かけることもあります。これらの用語は、クレーム以外の部分でもオープンであることを意図している場合(すなわち、部分として含む場合)に使用します。訳としては、「備える」、「含む」、「有する」などが使用されます。
なお、クローズドクレーム(クレームの記載内容以外の事項が加わった場合は権利外とするクレーム)を作成する場合には“consist of”、“composed of”などを使用し、「からなる」、「から構成される」などと訳します。
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