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中級講座「法務・契約書」Q&A

通信科受講生から寄せられたご質問を紹介しています。
回答は、中級講座「法務・契約書」担当講師の、冨田敬士先生です。

◆英文法については初級講座「はじめての翻訳文法」Q&A、契約書翻訳については上級講座「法務・契約書」Q&Aも参考になります。

英米法について、テキストを読んで、英米法は判例法であり、普通法(コモンロー)・衡平法(エクイティー)・制定法(statute)からなると理解したのですが、条文になっていないのはコモンローだけですか?条文になっていないということは、コモンローという冊子体はなく、膨大な判例をいちいち調べて裁判官は判決を書いているのかと不思議に思いました。
条文化されていないのは、コモンロー、衡平法、そして慣習法です。
なお、英米法と総称されるとおり、英国と米国は同じ法体系に属しているものの、ご質問いただいた「条文化」という点でも違いがあります。たとえば米国には合衆国憲法があるのに対し、英国には英国憲法という名称の独立した法典はありません(さまざまな議会制定法や判例の集積を「英国憲法」と総称しています)。
また、「膨大な判例をいちいち調べて裁判官は判決を書いている」というのはそのとおりですが、判例として使用されるのは模範となるような重要な判決のみであり、関連する制定法も当然のことながら判決の有力な根拠とされます。判例は公式、非公式の判例集にまとめられ、検索の便宜がはかられています。なお、英米法では「先例拘束性の原則」が確立されており、裁判官は過去の重要な判決に拘束されますが、これは絶対的なものではありません。裁判所が社会情勢の変化や時代の要請に応じて先例を破棄し、新たな法的判断を下すこともあります。
英米法について信頼できる入門書、概説書などをご紹介いただけないでしょうか。
「英米法」と名の付く参考書は、いずれも第一線の学者による信頼性が高いものです。
ただし、「入門」と銘打たれた書籍でも特に初学者には敷居が高いかもしれませんので、最初は「米国ビジネス法(中央経済社)」、「世界一コンパクトでわかりやすい入門アメリカビジネス法(ダイヤモンド社)」など、平易な記述の概説書を選ぶとよいでしょう。
また、「法の国アメリカを学ぶ(有斐閣)」は、前置詞の抜けなど若干の誤植はありますが、英米法と法律英語を同時に学習するのに好適かと思います。
定義されている用語の訳し方がいまひとつわかりません。
例えば「本契約」は、“This Agreement”、“Agreement”、 “the Agreement”のどれでも大丈夫なのでしょうか?
どの契約書なのかを特定していない漠然とした“Agreement”は不適切です。
“This Agreement”か“the Agreement”なら問題ありません。ただし、1つの契約書で両者を混在させてはならず、いずれかに統一する必要があります。
「本製品」については“Product”、“Products”、「販売地域」については“Territory”、“the Territory”といった表記があります。単数と複数、theの有無など一貫していないようですが?
「本製品」が1つしか製造されないということは通常ありえないので、これについては複数形が適当です。ただし、単数を意味する文脈では単数形を使います。普通名詞と同じように考えてよいでしょう。
“Territory”、“the Territory”は定義語なので、定義条項で“Territory”となっていればその表記に従います。一種の固有名詞と考えてよいでしょう。
「本契約書」や「本製品」のように「本~」となっている例もあれば、「本会社」と「会社」の両方に分かれているものもあります。
また、“(the) Territory”は単に「販売地域」と訳されており、「本~」となっていません。「本販売地域」や「当販売地域」としなくてもよいのでしょうか?
定義された製品以外の一般の製品が契約書で使用されるときは、それと区別するために「本製品」とします。
定義された製品以外の一般の製品が契約書で使用されないのなら、区別が不要なので「製品」という表記でもかまいません。
「本」を付けるかどうかは、区別する対象の有無で決まるということです。
「本契約に関する」が“hereof”や“thereof”と訳されていますが、この場合の“here”と“there”に使い分けはありますか?あるいは、どちらでもよいのでしょうか?
どちらでもよいというわけではありません。ある条文で“this Agreement”が使用され、直後に“this Agreement”を受けた形で「本契約の~」を表現するときには“thereof”を使います。意味は「その契約」ですが、実際には“this Agreement”を 指しています。それ以外の「本契約の」という意味では“hereof”が使用されます。
“herein”、“hereunder”の使い方について、「本契約に~、本契約に基づく~」は、“this Agreement”を使って訳すのと、
“herein”や“hereunder”を使って訳すのと、どちらがよいのでしょうか?どのような場合に“herein”や“hereunder”を使うべきかがわかりません。
“herein”や“hereunder”は、簡潔な表現という意味では有効であり、好んで使う法律家も英語圏には数多く存在します。
ただし、指示内容が曖昧になる原因にもなるので、使用する際には注意を要します。指示内容が文脈から明らかな場合を除き、non-nativeとしては“herein”や“hereunder”を使用しない方が無難です。
法律条文の“section”、“paragraph”などには定訳があるのでしょうか。そのほか、「条」「項」「節」などを表す単語があれば教えてください。
“title(編)”、“chapter(章)”、“article”または“section(条)”があります。
ただし、“section”、“paragraph”、“article”については、特に法律文などでは多様な意味で使用されるため、定訳というものはありません。
どう訳すかは文書の構成などから判断すべきと考えます。
「第~条第~項」という場合の「項」の英語表現を教えてください。
「項」の定訳はありません。英訳する際は数字のみでよいでしょう。
例えば第3条第1項はArticle 3.1となります。ただし、契約書や法律条文については起草者の方針もがあるので、翻訳の際は発注者に問い合わせた方が無難かもしれません。
テキストでは「第~条」に“Section”という表現が使われていますが、“Article”、“Clause”、“Paragraph”とまったく同じなのでしょうか?
何か違いがあれば教えてください。
第○条という場合、一般に“Article”や“Section”が使われますが、どちらもほとんど同じ意味です。
“Clause”と“Paragraph”も条項の意味で使われることはありますが、「第 条」という具体的な条の表現に使用されることはまずありません。
特に指示がない限り、契約書の第○条の英訳には“Article”を使うのがよいでしょう。
address「住所」と、residence「居所」の違いを教えてください。
居所(residence)は人の住まいのことなので、自然人にしか使用できませんが、住所(address)は個人と会社のどちらに対しても使用できます。
「居所」は日本法における用語です。翻訳の表現は必ずしも日本法の用語に縛られるわけではないので、residenceを住所と訳しても格別の問題はないものと思われます。
当事者が個人であれば、「住所」と「居所」のどちらでもよいでしょう。
定義語の前の定冠詞について、“Licensor”や“Products”のように、契約書で定義され、先頭が大文字になっている単語がありますが、その前に定冠詞theが必要かどうかで迷ってしまいます。
theの有無については、書き手の好みか何かで、厳密なルールはないようにも思えるのですが、実際のところどうなのでしょうか?
法律文書の習慣として、一定の重要な語句(plaintiff、 defendantその他)には定冠詞を付けません。これらの語句は文書中で一種の固有名詞となっているほか、定冠詞を付けない方が簡潔で読みやすい文章になるからです。
契約書のLicensorなどの定義語も原則として同様と考えてよいですが、明確なルールがあるわけではありません。
「お客様」の英訳例として“you”と“The Customer”がありますが、どのように使い分けたらよいでしょうか?
使い分けの規則は特に見当たらないようですが、エンドユーザーとの直接契約であれば“you”の方が親しみやすいと思われますし、現にソフトウェアのユーザー向けのライセンス契約書では“you”が圧倒的に多いようです。
ただし、一部のサービス契約や利用規約では“The Customer”が使われている例も少なくありません。
“modify”、“revise”、“amend”は「修正する」の訳語として考えられますが、この3つの違いを教えてください。
これらは同義語反複として並列されることがあります。その限りでは、どれも同じような意味と考えられますが、細かく言えば“modify”は技術分野で「改造」という意味で使用されるように、法律用語というわけではありません。“revise”は日本語の「改訂」に相当し、「十分検討したうえで変更する」といったニュアンスで、法律分野においても使用されます。“amend”は追加、補足、変更など多様な意味を持っていますが、米国憲法の修正条項のように法律用語としてよく使用されます。「修正する」を1語で済ますのであれば“amend”が一番ふさわしいでしょう。
契約書で、“terminate”の訳として、「終了」や「解除」とありますが、「終了」と「解除」では、意味が違うのでしょうか?
「終了」は「満了」も含めた広い概念で、「解除」は「終了」の1つと言えます。
したがって、「満了」による終了と「解除」による終了の両方を同じ条文で定めている場合、その見出しは「契約終了」であり、「契約解除」と訳すのは内容的に不適切です。
「manufacturer, vendor, distributor, supplier」(商品の供給者)の違いがよく分かりません。
これらの語は、日本語では個別の訳語が当てられるのが普通ですが、意味に違いはないとも言えます。
つまり、メーカーから商品を直接仕入れる場合、そのメーカーは買い手から見ればsupplier(供給者)であり、vendor(売り手)でもあります。
s一方、メーカーから直接ではなくdistributorを通じて仕入れる場合、そのdistributorは買い手から見ればやはりsupplier(供給者)であり、vendor(売り手)でもあります。言葉の意味はsituationによって左右されます。
この教材で使用する「製品」「契約」「会社」などの訳語は、「Products」、「Agreement」、「Company」といずれも先頭が大文字になっています。
文頭でも固有名詞でもないのに敢えて大文字とするのには、強調以外の理由があるのでしょうか?
大文字で表記されているのは定義語です。教材は契約書からの抜粋で、定義条項は省略していますが、これらの用語は実際には解釈の不一致を避けるために契約書で定義されています。
この件はテキスト1のP.1-10で説明しています。
同じ定義語でもtheが付いたり付かなかったりするのはなぜでしょうか?冠詞で注意すべき点がほかにもあれば教えてください。
法律文書の習慣として、plaintiff、defendantなど一定の語は冠詞なしで表記されます。その語を固有名詞扱いにして読者の注意を喚起するためですが、こうした習慣が契約書にも拡大し、定義語に冠詞を付けない表記が一部で定着しているようです。一般論としては、人やそれに相当する名詞(例えば会社など)には冠詞を付けず、それ以外の名詞には冠詞を付ける傾向にあると言われていますが、明確なルールがあるわけではありません。どちらの表記を採用するかは作成者によるでしょうが、英語圏では法律文で冠詞を省く習慣が広がることに批判的な学者も少なくありません。
Buyer、Productsなどの定義語の前にtheが付く場合と付かない場合がありますが、どちらかに統一してあれば問題ないのでしょうか?
同じ契約書において「当事者」のBuyerは1人なので、どちらかに統一してあれば結構ですが、Productsについては問題があります。
theを付けるかどうかは、その語が文脈上特定されるかどうかで決まります。例えば、Productsが「~年~月~日に出荷された製品」のように特定されたものでない限り、定冠詞は原則として付けません。
「財産権」はproprietary rightと訳すと教わりましたが、property rightも「財産権」でよいですか?(テキスト3 P.3-18)
property rightは知的財産権に代表されるような、財産法に基づく権利のことで、「財産権」がほぼ定訳となっています。
proprietaryは日本語に訳しにくい概念で、定訳があるわけではありません。proprietary rightはいわゆる所有権より概念が広く、「物を自由に支配し得る権利」という意味に解釈されています。
日本の民法の「物権的権利」に相当し、「専有的権利」「財産的権利」などと訳すこともあります。
「所有権」をproprietary rightと訳しましたが、titleの方がよかったでしょうか? titleの使い方がよくわかりません。(テキスト3 P.3-24)
この場合はtitleと訳します。proprietary rightの意味は上記のQ20のとおりで、「所有権」の訳語としては不適当です。
titleは日本の法律に存在しない概念ですが、簡単に言えば「物を自由に所有・支配・利用し得るあらゆる権利の根源となる権利」という意味です。
昔から「権原」と訳されていますが、一般の人にはなじみがない表現なので、日本法における最も近い概念である「所有権」という訳語を当てることもよくあります。
英文和訳について、固有名詞を訳す際、カタカナに置き換えるか、それとも原語のまま残すかについては、どのような基準で判断すればよいのでしょうか。
固有名詞でも、一般に知られた名称(例えばマイクロソフトやモトローラ)であればカタカナがよいでしょう。
その他の名称は、正確な発音を確認できないこともあるので、原語のまま残すのがよいと考えます。
特に外国の住所などをカタカナ表記にすると、かえって不明瞭・不正確になることがあります。
英文契約書は長文が多いのですが、「,」のある箇所で区切って訳してもかまいませんか?
それとも原文どおり区切らないで訳した方がよいのでしょうか?
一般的に原文の意味の区切りが訳文を区切る目安です。
但し書きや関係代名詞の非制限用法は目安になりますが、「,」の位置はあまり目安にならないでしょう。
なお、必要以上に細かく区切った訳文は、意味のつながりが不明瞭になったり、稚拙な印象を与えたりすることもありますので注意が必要です。
辞書や文例集でも適切な訳語が見つからない場合はどうしたらよいでしょうか?
助けになる書籍やデータベース サービスがあれば教えてください。
専門用語については新語が増えても辞典で間に合うことが多いのですが、専門用語以外の表現についてはバリエーションがあまりに多いため、適訳が辞典に掲載されているとは限りません。
そもそも専門的な表現なのか一般的な英語表現なのかを区別するのが困難な場合もありますし、辞書やデータベースですべて解決するというのは事実上不可能といってよいでしょう。
やはり何よりも頼りになるのは一般英語力ではないでしょうか。
また、日本法をはじめ、各種の実務書や実務経験で培った知識を総動員すれば、辞書にない訳語を導き出すことも可能となります。翻訳全般に言えることですが、辞書の訳語はあくまでも「訳例」にすぎません。
どの訳語もしっくりこなければ、原語が用いられている文脈あるいは英英辞典の語義を手がかりに訳語を工夫することも必要になります。
なお、専門分野の書籍に何を選択するかは仕事や立場によっていろいろですが、「英文契約書作成のキーポイント(商事法務)」などは翻訳者にとっても有益なデータベースです。
契約書翻訳のプロはどのような辞書・参考書を使っているのでしょうか?
この分野で権威のある辞書としては「英米法辞典(東京大学出版会)」がよく利用されています。参考書としては「入門アメリカ法(弘文堂)」、「ビジネス法務英文グロッサリー(商事法務)」なども有益です。
「英米法」「アメリカ法」「米国法」「イギリス法」「英国法」「アメリカビジネス法」「アメリカ契約法」「法律英語」「英文契約書」などをキーワードにしてインターネットを検索すれば、多数の実務書・専門書にヒットします。
アマゾンのカスタマーレビューやブログのコメントを参考にするか、大型書店で内容を確認するなどして、自分のレベルや必要に応じたものを書店や図書館で調達するとよいでしょう。それらを残らず読破するぐらいの意気込みが望まれますが、一度に何もかもというのは無理なので、「米国ビジネス法(中央経済社)」、「世界一コンパクトでわかりやすい入門アメリカビジネス法(ダイヤモンド社)」などの一般向けの概説書から取り組むことをお勧めします。
そのほか、「法律英語シリーズ(レクシスネクシス)」「法律英語の基礎知識(商事法務)」も契約書翻訳の強い味方になります。
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