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講座Q&Aコーナー

上級講座「医学・薬学」Q&A

通信科受講生から寄せられたご質問を紹介しています。
回答は、上級講座「医学・薬学」担当講師の、渡辺理恵子先生・長谷川由美子先生です。

◆英文法については初級講座「はじめての翻訳文法」Q&A、また、生化学系の翻訳については初級講座「はじめての技術翻訳B」Q&A中級講座「医学・薬学」Q&Aも参考になります。

America を「米国」と訳すことも「アメリカ」と訳すこともありますが、訳し分けの基準は何でしょうか?
技術系文書の場合、AmericaとUnited Statesは明瞭に区別します。Americaは「アメリカ」、United Statesは「米国」(1番手の訳)、「アメリカ合衆国」(2番手の訳)です。
アルキル化剤の発癌性について。
日本薬学会HPのアルキル化剤に関する説明には「DNAと1カ所でしか共有結合できない化合物は制がん剤ではなく発がん物質となる場合が多い」と書かれていました。
「1カ所でしか共有結合しない」とは、具体的にどのような場合に起きるのでしょうか。
2ヶ所で共有結合した場合は、「制がん性はあるが副作用を伴い、長期使用の結果二次がん発症につながる危険性がある」、1ヶ所で共有結合をした場合は、「DNA複製を阻害できず、発がん物質として作用する」という解釈は正しいのでしょうか。
「ナイトロジェンマスタードでは、DNAのグアニンの7位をアルキル化することによって、突然変異を起こさせ、正常細胞を癌化すると考えられている」のような説明が薬理の書籍に書かれています。
高校の化学を学び直し、看護と薬理の教科書を読み込むという王道を歩み、確固たる専門知識を身に付けることをお勧めします。
“A, B and C”の訳し方について。①「A、BおよびC」(原文どおりBの次にコンマを入れない)と②「A、B、およびC」(Bの次にコンマを入れる)と2通りがあるようですが、BとCのつながりの深さによってコンマを入れる場合と入れない場合に分かれるのでしょうか。
①ではB と CがひとまとまりになるためAと(B と C)が対等、②ではA、B、Cが対等というのが日本語として正しい解釈です。
ただし、医学薬学翻訳では、コンマを減らす傾向が見られ、使い方も正確ではありません。①②のどちらの表現にするかは翻訳会社の指示に従ってください。
false-positive rateについては「偽陽性率」が正式な訳語と思われますが、辞書やWebでは「無病誤診率」という訳語も見かけます。
両者間に使い分けはあるのでしょうか。あるいは、一般人にも理解しやすいように後者は便宜上使われているだけなのでしょうか。
真陽性率(有病正診率)、真陰性率(無病正診率)、偽陰性率(有病誤診率)も同様と思われます。
医学物理用語集(日本医学物理学会)には「有病正診率、無病正診率、無病誤診率、有病誤診率などの語は医学における診断を例にとって便宜的にこの概念を説明したもの」と書かれています。
また、Web検索したところ、「消化器がん検診用語集」にも記載がありました。分野によって明快な表現を定義・使用しているように見受けられ、特に一般向けということではないようです。
翻訳時にfalse-positive rateは「偽陽性率」(日本医学会医学用語辞典でもfalse positiveは「偽陽性」)と訳すのが基本ですが、対象分野を調査した結果「無病誤診率」などが一般的に使用されている場合や、クライアントから「無病誤診率」が訳語として指定されている場合には「無病誤診率」を用います。
「excision」と「resection」はどちらも「切除(術)」という意味ですが、使い分けはありますか。
研究社「医学英和辞典」ではexcisionが「摘出」「切除(術)」、resectionが「切除(術)」、金原出版「外科学用語辞典」ではexcision= extirpation, removal, resectionで「摘除」「切除」、resection= excision, extirpation, removalで、「摘除」「切除」「切除」および「摘除(摘出)」と定義されており、これではよくわかりませんね。
一方、「Oxford現代英英辞典」にはexcise:(formal) to remove sth completely、excision:(formal or technical) the act of removing sth completely from sth; the thing removed、resect:(medical) to cut out part of an organ or a piece of tissue from the bodyとあります(sth = something)。つまり、excisionは「完全に取り除くこと」、resectionは「一部を切り取って体外に出すこと」になります。
ただし、英英辞典の定義だけでは使い分けについて判断できないので、専門の辞書や参考書で適訳を探します。例えば「部分切除」であれば金原出版「外科学用語辞典」によるとpartial resectionです。また、「切除生検」はexcisional biopsyとなっていたので、丁寧に調べる必要があります。
「ステッドマン 医学大辞典」のCD-ROMを使用していますが、①辞書を今から揃えた方がよいのでしょうか。
その際には、②CD-ROMではなく電子辞書の方がよいのでしょうか。
①大工仕事に道具が必要なのと同じように、翻訳には辞書や書籍が不可欠です。
ちなみに私は、大学時代の本も含めて約400冊を10年ほどかけて購入しました。
学習の段階では何もかも購入しなくてもかまいませんし、図書館の蔵書で済ませてもよいと思いますが、
いずれにせよ調査する習慣は必ず身に付けてください。
②御自身が使いやすいもので結構です。
まず本文を読んで、インターネットや辞書で語句や関連資料を調べ、理解した上で翻訳するという手順を踏んでいます。
ただし、この手順が果たして適切なのかが分かりません。アドバイスをお願いします。
本文を読み、あれこれ調べる前に、高校化学の復習と薬理の勉強に力を入れること、例えば「がん」に関する課題なら当該分野の基本書を読み込んで基礎知識を吸収することが欠かせません。
これが足腰の強い翻訳者になるための王道です。
海外在住なので、書籍という形で資料を入手することが困難です。
資料をWeb検索する際のお勧めの方法やサイトがあれば教えてください。
海外在住の方は帰国時に本を買い込むか、日本在住の方に頼んで書籍を購入・送付してもらっていると聞きます(住んでいる地域にもよりますが、インターネット等で購入すると配送料が高額になってしまうこともあるそうです)。
また、Webサイトは内容に合わせて参照しましょう。厚労省のような政府系機関のWebページや製薬会社の商品紹介のWebページなど、信頼できるサイトを参考にしてください。NEJMで興味のある論文を読んだり、Audio Summaryを聴くなども英訳の学習になります。
英文法を復習したいと思います。
お勧めの書籍やサイトがあれば教えてください。
高校時代に使った英文法書が慣れ親しんでいるので一番よいと翻訳学校で教わりました。
英文法の基礎から復習したい方には大学入試用参考書の語学春秋社「山口英文法の実況中継 上・下」を、ある程度の文法知識をお持ちの方には金子書房「英文法解説」が役に立つと思います。
英文法に関する有用なサイトはいくつかありますが、美誠社の「英文法Q&A」は信頼性が高く、内容的にも興味深いので特にお勧めします。
①「,」②「;」③「:」の訳し方、注意点、適切な使い方を教えてください。
①「、」にすれば結構です。
コンマの打ち方には注意を要します。例えば、「救急病院で事故死した十代の男性の心臓を移植する手術を実施し、」とすると、「救急病院で事故死した」と解釈されます。もちろん、原文の趣旨がそのとおりであればよいのですが、救急病院以外の場所で事故死した場合には「救急病院で、事故死した十代の男性の心臓を移植する手術を実施し、」のように「救急病院で」の後にコンマを打つか、「事故死した十代の男性の心臓を移植する手術を救急病院で実施し、~」のように語順を変更して誤解が生じないようにする必要があります。
②和訳の場合には最終手段です(「;」は日本語の記号ではないため)。英訳の場合、「;」の後にandを書かないことに注意を要します。セミコロンの使い方は難しいので、英訳に慣れてから使った方がよいとされています。
③和訳では、「:」の後に単語を置くのは結構ですが、文が来るときは「。すなわち、」とします。英訳では、「:」の後に文が来るときは、小文字で始めることも、大文字で始めることもありますが、引用符で囲まれていれば文の最初を大文字にします(『American Medical Association Manual of Style』より)。
「ひらがな」、「カタカナ」、「漢字」の使い分け方について。
①「がん」②「タンパク質」③「ひと」については、漢字表記を見たことがあります。どのようにして使い分けたらよろしいですか。
①「がん」「癌」は専門家、「ガン」は患者さんに対する翻訳で用いる表記です。
②クライアントの指示がある場合はそれに従い、ない場合は「蛋白質」「たんぱく質」「タンパク質」「たん白質」などのどれかに統一します。
③生物学的な観点から人間を捉えるときは「ヒト」と表記します。「ひと」という表記は人文科学系の用例ではないでしょうか。
和訳の場合、年代は半角と教えていただきましたが、その他の数字(人数その他何らかの値)もすべて半角で入力すべきなのでしょうか。
特許分野でない限り、数字は半角で入力するのが原則です。
「数字は1桁の場合のみ全角」というルールを採用しているクライアントも存在しますが、それはあくまでも特別なケースです。
英文では mg や kg といった単位の前後に半角スペースを挿入しますが、和文ではどうすればよいのでしょうか
半角スペースを挿入するかどうかは、翻訳会社やクライアントの指示に従います。特に指示がない場合は、「半角スペースあり」「半角スペースなし」のどちらかで統一しておけば結構です。
英文における( )と同じように、和文における( )の前後にも半角スペ―スは必要なのですか。
全角括弧の前後にスペースは不要です。半角括弧の前後は「半角スペースあり」、「半角スペースなし」のいずれかに統一すればかまいません。
会社名や検査名の定訳が見つからない場合、原文表記のままでよいのでしょうか。
報告書、論文などの堅い文書の場合、以下の原則に従えばよいでしょう。
●氏名、商品名:原文どおり
●会社名、病院名:基本的に原文どおり
●検査名および公的団体名:仮訳の直後の括弧内に原文を併記
地名がある場合は、わかれば適切な日本語表記にすればよいと思います。
ただし、番地が含まれている住所は原語のままでかまいません。
なお、カタログなどの一般向けの文書では、英語表記をなるべく少なくした方がよいでしょう。
「阻害する」「抑制する」の訳語としては①inhibit、②interfere、③impair、④preventなどがありますが、どのような文章でどの語を使用するかについて決まりはあるのですか。
特にありません。 ①は一般的な訳語、②は「左右する」「干渉する」、③は「臓器・機能などを害する」、④は「発生・悪化を予防する」が基本訳なので、文脈から意味を考えて最もふさわしい動詞を選びましょう(「薬事・申請における英文メディカル・ライティング入門Ⅱ」サイエンス&テクノロジー)。
菌が主語として文中に出現する場合、通常は複数形で表記するのでしょうか。
菌(特に腸球菌など)は1種類ではないので、複数形で表記するのが一般的です。
化学物質名の訳に苦戦しました。このような物質名を訳す場合に適した書籍やWebサイトはありますか。
基本的な化合物名や、官能基名などはお持ちの「化学辞典」や化学同人「化学・英和用語集」、岩波書店「理化学辞典」、東京化学同人「生化学辞典」などの辞典を調べます。化合物の数は膨大なので、1冊で網羅されるような辞典はありません。
Webサイトで便利なのは日本化学物質辞書Webです。また、市販されている物質であれば、化学薬品メーカーのカタログ(和光純薬工業など)を見るのもひとつの手です。
医薬品でしたら、南江堂「今日の治療薬」や薬理の教科書などを参照します。新規で複雑な化合物の場合には辞書などに載っていないことが多いので、和訳で翻訳要の場合には化合物命名法の本(例:三共出版「最新全有機化合物の名称のつけ方」)や類似化合物名を参考にして音訳しますが、翻訳不要で原語のままの場合も多いです。
いずれにしても化学の基礎知識を勉強して基本的な化合物の命名法は把握しておく必要があります。
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