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講座Q&Aコーナー

はじめての技術翻訳A Q&A

通信科受講生から寄せられたご質問を紹介しています。回答は、「はじめての技術翻訳A」担当講師の、斉藤勝彦先生です。

電気や機械など自分が知らない分野の英文を訳すときは、何か参考にできるものはありますか。
どうしても直訳をする癖がついてしまっており、日本語らしく訳そうとすると端折らなければならないように思えますが、端折れば大事な部分を抜かしてしまいそうで不安です。
背景の調査は翻訳に欠かせない作業のひとつです。
全く知らない分野について各種辞書の他に即座に頼れるものとしては、インターネット検索が主流になっています。翻訳の際に、当該分野の豊富な知識があればよいのですが、現実にはそうした状況は多くないでしょう。文章のテーマとしては、例えば「コンピュータ」などの分野名の他に、もう少し文に適合した細かなテーマが見つかると背景をより詳しく調査できますので、一度全体を訳した後で、または訳しながら単語などの情報を頼りに背景を探っていく方法を取るとよいでしょう。若干根気と熟練が必要ですが、このような方法が最も現実的と考えられます。
また、単語の検索であれば、知りたい英単語に「用語」などの言葉を付け加えると、ネット上の用語集がヒットする場合もあります。また、ネット上で科学技術の基礎を詳しく図説しサイトを利用する方法もあります。その他にも様々なテクニックがありますので、答えがどこかにあると信じ、少しずつ経験しながら楽しんで身に付けていくと良いでしょう。
辞書には、「マグローヒル科学用語辞典」や「岩波理化学辞典」のように短い解説が載ったものもありますので、そこから見当をつける方法もあります。

また、「直訳する癖」があるとのことですが、英文を丁寧に訳出するには、最初に、“直訳的”に英文の意味を全て出してみることが過程として非常に大切です。こうして原文に沿って“仮の訳”を作成し、そこから検討を加えて訳文を完成させるプロセスを知ることが、特に翻訳の学習中には重要なことです。
テキストの解答例は、そのようなプロセスを経て最終的に導かれた一例に過ぎません。原文と直接的に結び付けてしまうと、かえって混乱を招くことにもなりますので、そうした過程があることを知った上で、直訳(仮の訳)からどのように取捨選択したものかを考えると、翻訳の良い勉強になります。「直訳の癖」を大いに良い方向に発展させていただければと思います。
テキストP-33、Sec.4 課題1の「front derailleur(フロントディレイラー)」の働きがよく分かりませんでした。
自転車は、前方のギアと後方のギアをチェーンで組み合わせて走行し、その組み合わせによって、ペダルをこぐときのギア比(速度)が決まります。通常、リアディレイラーだけで後方の複数のギアを5段~8段、細かく変更できるようになっていますが、構造が複雑(高級)な自転車ではさらに前方のギアも大と小があり、それをフロントディレイラーで変更できるようなしくみになっています。それによってギア比の範囲が全体的に大きく変更され、対応する速度も大幅に変わります。そうしたことから、テキストのように、走行を大きく切り替えが可能になるわけです。
遠心力(テキストP-41、Sec.5 課題1)の内容に関する参考資料をネット上でなかなか見つけることができず、文系出身の私には、内容を把握することが困難でした。もし参考になるサイトがあれば、紹介していただけますでしょうか。
この部分は、ネット調査が容易ではなかったと思います。参考になるような代表的なサイトもありません。このような場合に対処するために自分の方法を確立しておくことが大切ですが、たとえば下記のような手順で調査してみてはいかがでしょうか。

①まず、wikipediaなどの日本語のサイトで、遠心分離やそれに関する遠心力の基本事項の概要をおさえておきます。
②「遠心力」は画像検索でもヒットしますので、分かり易そうな画像をクリックして、さらに自分の中の知識を補足してもよいでしょう。ブック検索も試してみましょう。基本書が分かりやすいです。
③「遠心分離機」は「バケット」「取扱説明書」などの言葉を掛け合わせると細部の様子を説明したパンフレットなどが閲覧できます。
④次に英語のサイトを見ていきます。“centrifuge” “bucket”で検索してみます。テキストよりも明快な画像が掲載されている場所もありますので、動作の様子を想像してみることもできます。手回し式のものもあり興味深いと思います。
⑤さらに、“centrifuge”を検索すると基本的な知識のサイトが表示されます。数が多ければ“physics” “mechanical” “basic”
“principle”のような語と組み合わせて絞り込むこともできます。少し努力して英文の内容を見てみるとさらに理解が深まります。YouTubeのような動画でも遠心力の実験のものを見ることができる場合があります。
⑥テキストの最後の行のような部分については、“遠心力” “重力” “合力”で検索すると、どのように力が合成されるかを説明した画像が見つかります。

ネット検索は試行錯誤の部分も多いですが、経験で腕を磨くこともできます。どのような言葉で検索するかを考えていくことがポイントです。また検索は、かなり幅広いものになりますのでウイルス対策にソフトを導入することも忘れないでください。
専門用語を調べて複数の訳がみつかった場合、訳語の選定に迷います。何を基準に判断すればよいでしょうか? 例えば、テキストP-24、Sec.3 例題2 2行目の“fixed-angle rotor”の用語ですが、辞書(科学技術和英大辞典)では「固定角ロータ」、Webでは「固定アングルロータ」「アングルロータ」とあります。
このように、複数の選択肢から、最終的に1つを決めるとき、どう見定めればよいでしょうか?(たとえば信頼性のある辞書を使う、学術サイトの用語を使用する、グーグルでヒットした数の多いものを使用する、など) また、「固定角」か「固定アングル」か、等、外来語扱いにすべきか(カタカナを使うか)についても判断基準を教えてください。
判断の方法としては、質問で述べられている方法はどれも正しいといえます。加えて、英文で述べられている背景と一致しているかを確認する必要もあります。その点では、インターネットの活用が有効であり、専門分野の解説を行なっているサイトで、目的の用語(およびその訳)が見つかればほぼ間違いない絞込みができると思われます。対訳を発見したサイトから切り離して、調査した単語(日本語)を単独で再度検索をかけてみることも有効です。いろいろと工夫をして情報を導き出す経験を重ねてください。使用可能な語が複数存在する可能性もあります。機械分野では、従来から漢字を使用することが好まれる傾向がありましたが最近はそれほどこだわらないようです。実務の際には顧客からの指示に気をつけてください。いずれにしても後で修正が容易にできるように訳語の統一を確実にすることが翻訳者として行なうべき基本事項であると思われます。
自転車部品の金属について、日本語の見当がつかず、英単語で検索をしたら、英語の長い論文などで、理解できませんでした。求める訳語を得たい場合、検索のヒントなどがあればお教えいただきたいです。
検索では、上手なコツをつかめば目的の情報を見つけることができますが、方法は多様であり、また人それぞれのやり方が異なりますので、自分で方法を考えていくしかありませんが、一般的に思い当たることを下記にあげてみます。
ご質問にあった「自転車部品の金属」を例に説明します。

①クエリと英単語の組み合わせ
調べたい単語が英単語である場合は「自転車 部品 金属 "$ #"」のような組み合わせで検索してみます($ #は調べたい単語)。
限定する場合はかならず全体を" "で囲ってください。英語が複数の単語の組み合わせである場合は、「自転車 部品 金属 $」のように片方ずつ調べる方法も効果的です。同様に日本語のクエリも減らすなどいろいろ試してください。
②用語集他
それでも見つからない場合は、自転車の用語集がネット上にある可能性があるので「自転車 用語 $」のようにしてみます。「用語 $」だけでも可能性があります。その場合は見つかった単語が自転車のものかどうか確認が必要です。その他に「対訳」「英語」などのクエリに変えてみるのも試してみる価値があります。
③カタカナ音訳との組み合わせ
さらに、カタカナ音訳を自分で考えて入れてみる方法もあります。
例:「chromoly クロモリ」
④既知の訳語との組み合わせ
調べたい語が複数の単語の組み合わせの場合には、分かっている部分の日本語だけを入れてみる方法もあります。
例:「alminium alloy 合金」
⑤分割して調べる
"carbon-fiber-epoxy-composites"のような場合は複合語なので自分で切れ目を考え"carbon-fiber"と"epoxy-composites"のように分けてみます。
その際④のように「"carbon-fiber" 繊維」や「"epoxy-composites" エポキシ」のようにして検索してみます。得られた結果を組み合わせて再検討します。
⑥結果の検証
大切なのは最後に探り出した訳語を再検索し、検討してみることです。それは、上記の方法には自分の憶測が入ってしまっているので正しい訳語である保障は全くないからです。出来上がった訳語が本当に存在するか、検索結果が原文の分野や状況に適合するかなどを調べ、よく考えます。あまり神経質になりすぎても学習が進みませんので、ある程度のところでとりあえずの答えとしておいてもかまいませんが、実務に向けて力を付けるために細かく検討することは避けて通れないステップです。必ず経験をつんでいってください。
⑦その他
調べるものの形状が気になる場合、検索語をいれて「画像」の部分をクリックすると写真や図が検索できます。
また、さらなる検索テクニックについては、翻訳者向けに「翻訳に役立つgoogle活用テクニック」(安藤進著 丸善)などの本が出版されています。機会があれば目を通してみてください。
可能性の「may」は「することができる」という訳が一般的のようですが、「することがある」でも同じニュアンスでしょうか?
mayは可能性を表すことから“することがある”と訳すこともできます。ただしsometimesが入った文が他にある場合などは、必要に応じて両者を訳し分けなければならないこともありますので注意が必要です。
技術文ではcanに近い形で使用されることが多いため、一般に「することができる」や「であってもよい」の形で訳すことになります。この場合は「することがある」としてしまうと多少ニュアンスが違ってしまいます。
「; (セミコロン)」や「: (コロン)」の訳し方がよく分かりません。
コンマ、ピリオドと並び、文の切れ目を表わす記号です。コンマ、セミコロン、コロン、ピリオドの順に強くなります。
訳文には句読点(、/。)を対応させるのが主ですが、そのまま「:」や「;」を表記する場合などもあります。セミコロンは、2つの文の対比や並列に使用され、コロンは、前述したものに詳述を加える場合や列挙する場合などに使用されます。
具体例としては「翻訳の泉」をご覧ください。
●セミコロンについて⇒第15回 助動詞の話(例文16A)、第17回 不定代名詞の話(例文19A他)
●コロンについて⇒第16回 代名詞の話(例文7)、第18回 数量詞の話(例文11B)
●句読点について⇒翻訳のマナーと規則(句読点)
数字を和訳する際、漢数字とアラビア数字のどちらにすべきでしょうか。
アラビア数字を主に使用します。「一時的」など他の数字では置き換えられない場合は漢字を使用します。
「翻訳の泉」の翻訳のマナーと規則に詳細が記載されていますのでご参考ください。
「which」や「, which」の関係代名詞のある文を訳すのが難しいのですが。
これらを境に後ろから訳し上げるか、前から訳すか等の問題と思われます。
一般に限定用法ではwhichの後ろから訳し上げ、付加用法では前の部分から,whichの後へ訳し下げてかまわないなどの基本ルールがありますが、書き手がこれに従っていない場合も多く、文の内容をよく吟味して判断する注意が必要です。
「翻訳の泉」第7回 関係構文の話に詳しく説明されています。
英訳の際は、“人を主語”にするよう意識したほうが良いのでしょうか?
技術英文では、物体や概念が主語になり(無生物主語)能動体で表現される場合や、受動態で表現される場合など様々であり、訳文はそれに対応させて表現する必要があります。
テキストの英文と解答例の訳文で主語(主部)と動詞(述部)を対比して確認してみてください。
こちらについても「翻訳の泉」第2回 受身の話に詳述されています。
産業翻訳は“原文に忠実に訳す”のが原則ですが、“日本語にない表現は訳さなくても良い”とも聞きましたのでやや混乱しています。
日本語では、例えば"better than~"を「~より、よりよい」とは重複して表現しないので「より」を1つ省略したり、同様に"If~,then…"の場合に「~であるなら、その場合…」とせずに省略します。そのようなものが「訳さない」例として考えられます。
その他にも英文には日本語で表現できない部分が確かにあり、重要な部分でなければそれを省略することも考えられますが、原文に忠実な訳とは等価な(内容が等しい)訳文にすることと捉え、安易に省略を考えずに、日本語にない表現に対してはまず日本語として言い換えた表現が可能でないか検討することが大事です。
「棒」と「軸、シャフト」は同じ物を意味しているのでしょうか?ネット上の図などを見てもこの2語の違いがなかなか理解できません。
「棒」は回転子の一部分として組み込まれている要素です。「軸」や「シャフト」は一般的に回転する部品(車輪など)に用いられるもので棒とは異なるものです。
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